珈琲をゴクゴク呑むように

アツアツだよ(´・ω・`)

北条かやさんの「日曜のお医者さん、咳止めとビタミン剤で7000円とるってどやねん」発言についての雑感

北条かやさんの発言が医療クラスタに大変ひんしゅくを買っている。

 

 

 

正直な事を言えば、これは風邪で医者に行く意味がないという事を啓蒙していない僕ら医療従業側にも責任はあると思う。ただまあ正直なところ、そういう事を説明しても普通の人は何一つ理解してくれない事はこの数年間の医者生活でよくわかったので、今日はそもそも医療って何なのって切り口から話をする事にする。

 

なぜ人は風邪で病院を受診するのか

人は様々な理由で病院を受診する。「風邪をこじらせて肺炎になったら行けないと思って早期受診しました」のような早く医療機関にかかれば早く病気が治ると思っている人もいれば、「いつまでたっても熱が下がらないので病院に来ました」という人もいる。

 

ちなみに風邪をこじらせても肺炎には普通はならないし、風邪で熱がなかなか引かない時に病院を受診しても残念ながら普通は熱は下がらない。ただそういう風に医療従業者が説明して、病院を受診しないで済ませられるような人なんてほとんどいない。

 

健康な人が風邪などで医療機関を受診する理由の99%は、自分や家族の体調不良に対して「素人判断による判断ミス選択した」という事実から逃げるためだ。

 

とりあえず病院にいって医者から薬をもらったという事実は、思いのほか精神的な支えとして強力に働く。ほとんどの医療従業者は勘違いしているが、僕らの仕事は病気を治す事だけではなく、病院にくる人の精神的な支えをするという役割も大変大きい。

 

だから風邪みたいな医療従業者からみてしょうもないプロブレムで病院を受診する人を、医療従業者が叩くのはお門違いでもあるのだ。僕もどちらかというとカウンセリング的な医療業務が嫌いな方の人間なので、ギャーギャー言いたくなる医療従業者の気持ちはよくわかるのだけど。

 

ただ強く強調しておきたいのだけど、医者は万能ではない。病院に来たからといって風邪を一瞬で治せはしないし、全ての病気を治せるわけではない。まして患者を不老不死にする事なんて絶対にできない。

 

医者にできる事、できない事

「人間の死亡率は100%です」

 

これはバカの壁で有名になった養老孟司先生が講演会でよく出す決め台詞である。

 

2016年現在、残念ながら人の命は有限だ。健康に生まれた人でも、ほとんどの人は80歳前後にはこの世を旅去る。

 

人の命は有限だ。それゆえに大切なのは「有限な命の中で何をしたいか」である。だけど医療機関を受診する人をみていて問題だなと思うのは、ほとんどの人の求めているものが「死にたくない」というアリエナイ理想である事が非常に多いという事である。残念ながらその注文には医者はまだ応えることができない。

 

僕は実はF1が凄く好きなのだけど、医者の仕事はF1の車の整備にとてもよく似ているなと思う。マシーン整備の人は、F1レーサーが気持よくサーキットを走りきる為に、機体を事細かに整備する。これにより、F1レーサーのレース中の快適度は桁違いに上がっている事だろう。

 

だけどマシーン整備の人は、F1カーを燃料無しに永遠に走り続けるようにはできないし、壁に激突しても絶対に人が死なない車も作ることができない。

 

僕は医療機関をおとずれるモンスタークレーマーを見るたびに「この人は医者をマッドサイエンティストか何かと勘違いしているんじゃないか」と思うのだけど、たぶんあの人達は人の命は永遠であるという前提でモノを話しているのだ。ゆえにそれを理解していない医者としばしば衝突する。

 

だから僕ら医者は、こう啓蒙する必要があるのだ。「あなたは100%死ぬ。私達にできるのは、せいぜいあなたが気持ちよく人生というサーキットを完走するお手伝いでしかありません。永遠に20代の体でいられるようにはできませんよ」と。

 

結論

初めの問いに戻るが、正直風邪で7000円が高いかどうかというのは、あなたが人生というサーキットを高速で駆け抜けるためのメンテナンス費用がどこまで出せますか?という事に行き着く。

 

ちょっとぐらい周回遅れしてもいいかなって思えるのなら、7000円を払う価値など無いし、逆に最速で駆け抜けたいのなら7000円は妥当な金額だろう。

 

結局のところ、あなたが人生に何を求めるかなのだ。それ以上でも以下でもない。

 

 最も大切なのは、あなたが人生において何を一番大切にしており、何を成し遂げたいかである。それがハッキリしていれば、僕たち医療従業者は現在における最先端を提供することは可能だ。だけど現在の科学技術を超えたものは提供する事は出来ない。それだけは最低限理解して欲しいな、と思う。

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