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アツアツだよ(´・ω・`)

神話から読み解く,ルミネCMの問題点

全ての物語は神話を原型としている.こう分析したのはジョーゼフ キャンベルで,彼のそのHeroes and the monomyth理論の素晴らしさは神話の力にて垣間見ることができる.スターウォーズ,ロードオブザリング,マトリックスハリーポッターは見方によっては全てこの理論をそのままパクって作られているともいえる.

さて表題のルミネCMであるが,どうしてここまで炎上してしまったのか.
再度一話二話の構図を箇条書きにしてみて,まず物語原器とその問題を分析してみよう.
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第1話
1, 主人公が男性上司に「寝起きのような酷い顔してるな」と容姿を突然バカにされる.
2, その後,カワイイ女性社員がもてはやされる場面が登場.
3, それを見て自信なさげな主人公に対し、男性上司が「大丈夫だよ、需要が違うんだから」と吐き捨てる。
4, それを聞き危機感を抱いた主人公を表示し,「変わりたい? 変わらなきゃ.そんなあなたをルミネが応援します!」というメッセージが打ち出されて終了。
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第2話
1, 主人公がカワイイ女子社員がチヤホヤされているのを劣等感にまみれて見ているところに1人の若い男性社員が声を掛けてくる。
2, お互いが歴史好きという共通の趣味で打ち解け、男性が「歴史が好きな人って美人が多いってホントですね……」とラブコメ的な展開へ。
3, 思わぬ褒め言葉に慌てた女性は自虐的な返しでその場をごまかし、第1話と同じように「変わりたい? 変わらなきゃ.ルミネが応援します!」というメッセージが打ち出されて終了.
(ちなみに大きく炎上したのは第1話の方)

この構図は第1, 2話を通じてみればわかるけど典型的なシンデレラのストーリーだ.構図を書き出すと

1, シンデレラは、継母とその連れ子である姉たちに日々いじめられていた。
2, あるとき、城で舞踏会が開かれ、姉たちは着飾って出ていくが、シンデレラにはドレスがなかった。
3, その後,シンデレラを不思議な力が助け,12時までという時間制限の元に舞踏会へ行き,王子様に見初められる.
4, 残されたガラスの靴を元に王子様が白雪姫を見つけ出し,意地悪な姉達を尻目にシンデレラは王子様と幸せに結婚する.

おそらくルミネ側は「あなたをシンデレラにします」というメッセージを贈りたかったはずなのだ.しかし意図は第1話のみが公開されたために予想を遙かに振り切って,大きく誤解されることとなる.

まず一つ目の問題点は,第1話だけをとって見た際にそこに救いが全く含まれていないという点だ.神話や童話では意地悪をする相手には必ず罰があたる.このCMでは暴言を吐いた上司には全く制裁が下されず,そのため何かモヤモヤしたものを感じる視聴者は,そのモヤモヤを「男性に消費される女性像」や「フェミニズム」といったものへと帰着させていく.人間は説明のつけられない感情を非常に嫌うため,そこになんらかの関連性や理由を見つけたがる.おそらく上司やカワイイ女性社員が物語の最後に酷い目にあっていたら,問題はここまで大きくならなかっただろう.

二つ目の問題点は,第1話の構図がそのままスポ根漫画を代表とする師弟関係という物語原器に非常に類似しているという点だ.代表例は巨人の星などがあがる.
この物語原器は構図として
1, 理不尽に厳しい師範と理不尽な目にあっている主人公が登場する(例・大リーグ養成ギプスをつけられた星飛雄馬とその父)
2, そこに美形で生まれも育ちもよい,文武両道なライバルが登場(例・花形)
3, その後も主人公には師範による厳しい指導と雨あられのような理不尽が降り注ぐが,全て無茶苦茶な努力で全てを解決する.最終的にはボロボロになった主人公とライバルとの間には厚い友情が芽生え,お互いを認め合い物語は終結する.

この物語の世界観はいうまでもなく男尊女卑像が非常に色濃い時代背景を有している.それだけでも随分と危険な要因をはらんでいる事はいうまでもないのだが,最大の問題点はこの理不尽を与える師範の役割を上司という男性側が演じてしまっている事だ.そのことが男性に隷属する女性像を喚起させ,結果今回の炎上へと結びついた.おそらくあの「需要が違うから」という迷セリフ(これを男性が言うと性として消費される女性を示唆するで非常に危うい)を女性上司が言っていたら(まあ女性はそんな事いわないだろうけど)このCMはそこまで問題にはならなかっただろう.師弟関係は基本的には同性の間に結ばれるべきものなのだ.女子の世界にもガラスの仮面といったスポ根・師弟関係の物語原器を元にした大ヒット立身出世漫画をみればそれは容易にわかるだろう.月影千草がもしも男性だったら恐らくあの漫画はフェミニスト団体に撲滅されていたはずだ.

〈ちなみによく出てくる「おまえの為を思って厳しくしているんだ」や「期待しているからこそ,おまえに辛く当たるんだ」等のセリフは大体上記の物語を礎として構成されている.理不尽は努力で乗り越えるべきものであり,その理不尽を与えている自分は星飛雄馬の父の様な偉大な存在なのだという偉大なる勘違いがその元にあるからこそ,先のセリフがスラスラと出てくるのだし,言われた側も何となく騙された感じがしつつも納得してしまうのは,そこに師弟関係という物語原器が存在している事を肌感覚で身につけてしまっているからだ.〉

あのCMを作ったルミネ社員は本当に物語というものをよく勉強していたと思う.ただCMというものが1分限定の,そこで完結する性質を持つ(とみんなが思い込んでいる)ものであるという事を見逃していたことが今回の命取りとなった(まあ仮に第1話と第2話繋がって公開されたとしても,需要という危険単語により炎上したとは思うけど)みなさんも感情を毛羽立ててルミネを叩くだけでなく,次は我が身とこれを機に神話やストーリーテリングについて勉強してみてはいかがだろうか.

--------参考文献--------
巨人の星
ガラスの仮面
千の顔を持つ英雄
神話の力
17歳のための世界と日本の見方―セイゴオ先生の人間文化講義